貸倒引当金

売掛金などの債権は、将来かならず全額回収できるとは限りません。決算では回収できない可能性がある金額をあらかじめ見積もり、貸倒引当金として計上します。差額補充法での設定から、貸倒れが発生したときの処理までを順番に確認していきましょう。

この単元で身につくこと

まずイメージ:回収できないかもしれない分を先に見積もる

売掛金は将来お金を受け取れる権利ですが、取引先の経営状況によっては、回収できないまま貸倒れてしまうこともあります。すべての売掛金が無事に回収できると考えて決算を組んでしまうと、資産の金額が実態より大きく見えてしまいます。そこで決算では、期末の売掛金などに対して「このくらいは回収できないかもしれない」という金額をあらかじめ見積もり、貸倒引当金という勘定で備えておきます。この単元では、その見積り方(差額補充法)と、実際に貸倒れが起きたときの処理を順番に見ていきます。

貸倒引当金の考え方

貸倒引当金は、期末の売掛金などの債権に対して、過去の実績などをもとにした見積率を掛けて算出します。貸倒引当金そのものは資産のマイナスを表す評価勘定で、貸借対照表では売掛金などから差し引いて表示します。

確認:貸倒引当金は「将来のマイナス」をあらかじめ計上しておく勘定で、実際に貸倒れが起きるかどうかにかかわらず、決算のたびに見積り直します。

差額補充法

3級で使う設定方法は差額補充法です。見積額をそのまま繰り入れるのではなく、見積額と、決算前の貸倒引当金残高との差額だけを繰り入れます。

差額補充法の2つのケース
比較処理仕訳の向き
見積額 > 決算前残高不足分を繰入借方 貸倒引当金繰入/貸方 貸倒引当金
見積額 < 決算前残高超過分を戻入借方 貸倒引当金/貸方 貸倒引当金戻入

表の読み方:見積額の方が大きければ不足分を費用(繰入)として追加し、見積額の方が小さければ超過分を収益(戻入)として減らします。どちらも「差額だけ」動かす点が共通しています。

図の見方:決算前残高6,000円に繰入4,000円を貸方に積み増し、貸方残高(期末残高)は10,000円になります。これが差額補充法で見積額どおりの残高に合わせるイメージです。

貸倒発生時と償却債権取立益

売掛金などが実際に貸倒れたときは、まず貸倒引当金を取り崩します。ただし、引当金を充てられるのは前期以前に発生した債権の貸倒れに限られます。当期中に新しく発生した売掛金が貸倒れた場合は、その債権に対する引当金がまだ見積もられていないため、引当金を使わず貸倒損失で処理します。

前期以前に発生した債権の貸倒れでも、貸倒引当金の残高が不足していれば、引当金を使い切ったうえで不足分を貸倒損失に計上します。反対に、すでに貸倒れとして処理済みの債権を、あとになって回収できた場合は、償却債権取立益という収益で処理します。

貸倒れ発生時の処理の分かれ方
場面処理
前期以前発生の債権が貸倒れ、引当金残高が十分借方 貸倒引当金/貸方 売掛金
前期以前発生の債権が貸倒れ、引当金残高が不足借方 貸倒引当金・貸倒損失/貸方 売掛金
当期発生の債権が貸倒れ借方 貸倒損失/貸方 売掛金
前期に貸倒れ処理済みの債権を当期回収借方 現金 等/貸方 償却債権取立益

表の読み方:まず「いつ発生した債権か」を確認し、次に「引当金残高で足りるか」を確認します。回収は貸倒れとは逆に、すでに処理済みの債権が戻ってきた場合だけ償却債権取立益になります。

例題で型をつかむ

例題1(差額補充法での繰入)

決算にあたり、売掛金の期末残高500,000円に対して2%の貸倒れを見積もる。決算前の貸倒引当金残高は6,000円であった。差額補充法による決算整理仕訳を示しなさい。

  1. 見積額を計算する:売掛金500,000円×2%=10,000円です。
  2. 差額を計算する:見積額10,000円−決算前残高6,000円=4,000円が不足しています。
  3. 差額補充法で仕訳を決める:不足分4,000円を貸倒引当金繰入として追加します。
  4. 仕訳を書く:借方 貸倒引当金繰入4,000/貸方 貸倒引当金4,000。
例題1の答え(決算整理)
場面借方科目借方金額貸方科目貸方金額
決算整理貸倒引当金繰入4,000貸倒引当金4,000

ここで迷ったら:見積額をそのまま繰入額にせず、必ず「見積額−決算前残高」の差額だけを繰り入れます。見積額と繰入額を混同しないようにしましょう。

例題2(前期発生の売掛金が貸倒れ)

前期に発生した売掛金8,000円が貸倒れた。貸倒引当金の残高は10,000円である。貸倒れ発生時の仕訳を示しなさい。

  1. 債権がいつ発生したかを確認する:前期発生の売掛金なので、貸倒引当金を充てられます。
  2. 引当金残高で足りるかを確認する:引当金残高10,000円は貸倒額8,000円より多いため、全額を引当金で処理できます。
  3. 仕訳を決める:貸倒引当金(資産のマイナス)を取り崩し、売掛金を減らします。
  4. 仕訳を書く:借方 貸倒引当金8,000/貸方 売掛金8,000。
例題2の答え(貸倒れ発生時)
場面借方科目借方金額貸方科目貸方金額
貸倒れ発生貸倒引当金8,000売掛金8,000

ここで迷ったら:貸倒引当金を使えるのは前期以前発生の債権だけです。もし引当金残高が貸倒額より少なければ、不足分を貸倒損失として追加で借方に計上します。

よくあるミス

見積額をそのまま繰入額にしてしまう「引当金を積む」という言葉から、見積額をそのまま貸倒引当金繰入の金額にしてしまうミスです。差額補充法の仕組みを忘れると起こります。繰入額は必ず「見積額−決算前の引当金残高」の差額で計算しましょう。
当期発生の債権の貸倒れに引当金を使ってしまう「貸倒れた売掛金=引当金で処理」と機械的に覚えてしまうミスです。引当金は前期以前の債権に対して見積もったものだという前提を忘れると起こります。まずその債権がいつ発生したかを確認し、当期発生分は貸倒損失で処理しましょう。
償却債権取立益を売掛金の回収と混同するどちらも入金があった点は同じに見えるため、通常の売掛金回収と同じ仕訳にしてしまうミスです。すでに貸倒れとして処理済みの債権かどうかを確認しないと起こります。貸倒れ処理済みの債権が戻ってきた場合だけ、収益(償却債権取立益)として処理しましょう。

ミニ演習(4問・即時採点)

Q1. 売掛金の期末残高800,000円に2%を見積もる。決算前の貸倒引当金残高は10,000円である。繰入額はいくらか?(答えを見る)

6,000円です。見積額800,000×2%=16,000円から、決算前残高10,000円を引いた差額6,000円を繰り入れます。

Q2. 前期発生の売掛金5,000円が貸倒れた。貸倒引当金残高は12,000円である。仕訳はどれか?(答えを見る)

借方 貸倒引当金5,000/貸方 売掛金5,000です。引当金残高が貸倒額より多いため、全額を引当金の取り崩しで処理します。

Q3. 前期発生の売掛金20,000円が貸倒れた。貸倒引当金残高は12,000円である。仕訳はどれか?(答えを見る)

借方 貸倒引当金12,000・貸倒損失8,000/貸方 売掛金20,000です。引当金残高を使い切り、不足分8,000円は貸倒損失として追加で計上します。

Q4. 前期に貸倒れとして処理済みの売掛金3,000円を、当期になって現金で回収した。仕訳はどれか?(答えを見る)

借方 現金3,000/貸方 償却債権取立益3,000です。すでに貸倒れ処理済みの債権が戻ってきたときは、償却債権取立益という収益で処理します。

貸倒引当金は、期末の売掛金などに見積率を掛けて算出し、差額補充法で決算前残高との差額だけを繰入・戻入します。貸倒れは前期以前発生の債権に限り引当金を充て、不足分は貸倒損失、当期発生分は最初から貸倒損失で処理します。貸倒れ処理済みの債権を回収できたときは償却債権取立益です。

対応する演習