会社の合併とのれん
会社が別の会社を合併して丸ごと受け入れるとき、受け入れる資産・負債は相手の帳簿価額ではなく時価で評価し直します。そして、対価として渡した株式などの金額と、時価で測った受入純資産との差額を「のれん」として計上します。ここでは吸収合併を題材に、受入純資産の時価評価から、のれん(または負ののれん)の算定・計上、のれんの償却までを、順を追って身につけていきましょう。
この単元で身につくこと
- 吸収合併で受け入れる資産・負債を時価で評価し、受入純資産の額を求められます。
- 交付した対価と受入純資産の差額から、のれん(または負ののれん)を算定・計上できます。
- のれんを20年以内の期間で規則的に償却できます。
まずイメージ:合併は「時価で買い取る」感覚で考える
会社の合併は、ある会社(存続会社)が別の会社(消滅会社)を吸収し、その資産・負債をまとめて引き継ぐ取引です。会計では、これを「相手の会社を買い取った」ととらえます(パーチェス法)。買い取るのですから、受け入れる資産・負債は相手の帳簿価額ではなく時価で測り直します。そして、支払った対価(多くは自社株式の交付)と、時価で測った受入純資産との差額がのれんです。
図の見方:左の帯が支払った対価、右の帯が受け入れた純資産(時価)です。対価のほうが高い分(上に乗っている帯)がのれんになります。逆に対価のほうが低ければ、その差額は負ののれんです。
吸収合併の会計処理(パーチェス法)
吸収合併では、消滅会社から受け入れる資産・負債を時価で評価して、それぞれ借方・貸方に計上します。対価として自社の株式を交付したときは、その株式の時価を払込資本(資本金や資本準備金)として処理します。つまり、受け入れた資産と負債、交付した株式による資本の増加を仕訳に並べ、貸借の差額としてのれんが決まる、という流れです。
ポイントは2つです。1つ目は、受け入れる資産・負債は簿価ではなく時価だということ。2つ目は、交付した株式は払込資本(増資と同じ扱い)で受けるということです。この2つを外さなければ、あとは貸借を合わせるだけでのれんが求まります。
確認:受入資産・負債は時価、交付株式は払込資本(資本金等)。この形で仕訳を組み、差額がのれん(または負ののれん)になります。
のれんの算定
のれんは、次の式で求めます。のれん=交付した対価−受入純資産(時価)。受入純資産は、時価評価した諸資産から諸負債を差し引いた額です。対価のほうが受入純資産より大きいときは、差額が借方ののれん(無形固定資産)になります。これは、相手企業のブランドや顧客基盤など、貸借対照表に表れない超過収益力に対して余分に支払った金額、というイメージです。
逆に、対価のほうが受入純資産より小さいときは、差額が負ののれんです。負ののれんは資産にはせず、発生した期の負ののれん発生益として特別利益に計上します。のれんは資産に立てて後で償却するのに対し、負ののれんは一度で利益にする——ここが大きな違いです。
確認:のれん=対価−受入純資産。対価が大きければのれん(借方・資産)、小さければ負ののれん発生益(貸方・特別利益で即時計上)です。
のれんの償却と表示
計上したのれんは、無形固定資産として貸借対照表に表示し、20年以内の期間にわたって定額法などで規則的に償却します。償却額はのれん償却として、損益計算書の販売費及び一般管理費に計上します。仕訳は(借)のれん償却/(貸)のれん です。一方、負ののれん発生益は償却の対象ではなく、発生した期に一度だけ特別利益として計上して終わりです。なお、株式交換・株式移転や事業分離といった、合併以外の企業結合の会計処理は簿記1級の範囲です。
確認:のれんは20年以内で規則的に償却(のれん償却=販管費)。負ののれんは償却せず、発生時に特別利益で計上します。
ユイ合併で受け入れる資産は、相手の帳簿の金額をそのまま使ってはいけないのですか?
サクラ先生使いません。合併は相手を買い取る取引なので、受け入れる時点の値打ち、つまり時価で測り直します。時価で測った純資産と、支払った対価との差がのれんです。
ユイ簿価のまま計算すると、のれんの金額がずれてしまうのですね。
サクラ先生そのとおりです。「受け入れる資産・負債は時価」が出発点になります。
例題で型をつかむ
A社はB社を吸収合併した。合併にあたりB社の諸資産を時価800,000円、諸負債を時価300,000円と評価した。A社は対価として時価620,000円分のA社株式を交付し、全額を資本金とした。(1)合併時の仕訳と、(2)合併後1年目ののれん償却(20年・定額法)の仕訳を示しなさい。
- 受入純資産を求める:時価評価した諸資産800,000−諸負債300,000=受入純資産500,000。
- 対価を確認する:交付したA社株式の時価は620,000で、全額を資本金にします(払込資本)。
- のれんを求める:のれん=対価620,000−受入純資産500,000=120,000。対価のほうが大きいので借方の資産です。
- 4列に並べる:(借)諸資産800,000・のれん120,000/(貸)諸負債300,000・資本金620,000。借方・貸方とも920,000で一致します。
- 償却する:のれん120,000÷20年=6,000。(借)のれん償却6,000/(貸)のれん6,000。
| 場面 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|---|
| 合併 | 諸資産 のれん | 800,000 120,000 | 諸負債 資本金 | 300,000 620,000 |
| のれん償却 | のれん償却 | 6,000 | のれん | 6,000 |
ここで迷ったら:受入純資産を簿価で評価しないこと(時価で評価)。のれんは対価−受入純資産で、対価のほうが大きければ借方の無形固定資産です。もし対価620,000が受入純資産500,000を下回っていたら、差額は負ののれん発生益(特別利益)になります。
よくあるミス
ミニ演習(4問・即時採点)
Q1. 吸収合併で受け入れる資産・負債は、どの金額で評価しますか?(答えを見る)
合併時の時価で評価します。相手の帳簿価額(簿価)のままではありません。時価評価した資産から負債を引いた額が受入純資産となり、対価との差額がのれんになります。
Q2. 受入純資産500,000円に対し、対価620,000円の株式を交付した。のれんはいくらで、どちらに計上しますか?(答えを見る)
のれん120,000円を借方(無形固定資産)に計上します。のれん=対価620,000−受入純資産500,000=120,000円で、対価のほうが大きいので借方です。対価のほうが小さければ負ののれん発生益になります。
Q3. のれん120,000円を20年で定額法により償却する。1年分の償却額はいくらですか?(答えを見る)
6,000円です。120,000÷20年=6,000円。(借)のれん償却/(貸)のれん で処理します。負ののれんは償却せず、発生時に一度で利益計上する点と区別します。
Q4. 受入純資産よりも交付した対価のほうが小さいとき、その差額はどう処理しますか?(答えを見る)
負ののれん発生益として、発生した期の特別利益に計上します。資産計上して償却するのれんとは反対で、一度で利益にします。対価と受入純資産のどちらが大きいかで向きを判断します。
吸収合併では、受け入れる資産・負債を時価で評価して受入純資産を求め、交付した株式は払込資本で受けます。のれん=対価−受入純資産で、対価が大きければのれん(無形固定資産・20年以内で規則的に償却)、小さければ負ののれん発生益(特別利益・即時計上)です。次の単元では、決算整理と財務諸表を学びます。