会社の合併とのれん

会社が別の会社を合併して丸ごと受け入れるとき、受け入れる資産・負債は相手の帳簿価額ではなく時価で評価し直します。そして、対価として渡した株式などの金額と、時価で測った受入純資産との差額を「のれん」として計上します。ここでは吸収合併を題材に、受入純資産の時価評価から、のれん(または負ののれん)の算定・計上、のれんの償却までを、順を追って身につけていきましょう。

この単元で身につくこと

まずイメージ:合併は「時価で買い取る」感覚で考える

会社の合併は、ある会社(存続会社)が別の会社(消滅会社)を吸収し、その資産・負債をまとめて引き継ぐ取引です。会計では、これを「相手の会社を買い取った」ととらえます(パーチェス法)。買い取るのですから、受け入れる資産・負債は相手の帳簿価額ではなく時価で測り直します。そして、支払った対価(多くは自社株式の交付)と、時価で測った受入純資産との差額がのれんです。

吸収合併で交付対価と受入純資産の差額からのれんを算定する図 交付した株式の時価620,000から、時価評価した受入純資産500,000を差し引いた差額120,000がのれんになるようすを、金額の帯の高さで示します。 交付対価 − 受入純資産(時価)= のれん 交付対価 620,000 株式の時価 のれん 120,000 受入純資産 500,000 諸資産800,000 − 諸負債300,000

図の見方:左の帯が支払った対価、右の帯が受け入れた純資産(時価)です。対価のほうが高い分(上に乗っている帯)がのれんになります。逆に対価のほうが低ければ、その差額は負ののれんです。

吸収合併の会計処理(パーチェス法)

吸収合併では、消滅会社から受け入れる資産・負債を時価で評価して、それぞれ借方・貸方に計上します。対価として自社の株式を交付したときは、その株式の時価を払込資本(資本金や資本準備金)として処理します。つまり、受け入れた資産と負債、交付した株式による資本の増加を仕訳に並べ、貸借の差額としてのれんが決まる、という流れです。

ポイントは2つです。1つ目は、受け入れる資産・負債は簿価ではなく時価だということ。2つ目は、交付した株式は払込資本(増資と同じ扱い)で受けるということです。この2つを外さなければ、あとは貸借を合わせるだけでのれんが求まります。

確認:受入資産・負債は時価、交付株式は払込資本(資本金等)。この形で仕訳を組み、差額がのれん(または負ののれん)になります。

のれんの算定

のれんは、次の式で求めます。のれん=交付した対価−受入純資産(時価)。受入純資産は、時価評価した諸資産から諸負債を差し引いた額です。対価のほうが受入純資産より大きいときは、差額が借方ののれん(無形固定資産)になります。これは、相手企業のブランドや顧客基盤など、貸借対照表に表れない超過収益力に対して余分に支払った金額、というイメージです。

逆に、対価のほうが受入純資産より小さいときは、差額が負ののれんです。負ののれんは資産にはせず、発生した期の負ののれん発生益として特別利益に計上します。のれんは資産に立てて後で償却するのに対し、負ののれんは一度で利益にする——ここが大きな違いです。

確認:のれん=対価−受入純資産。対価が大きければのれん(借方・資産)、小さければ負ののれん発生益(貸方・特別利益で即時計上)です。

のれんの償却と表示

計上したのれんは、無形固定資産として貸借対照表に表示し、20年以内の期間にわたって定額法などで規則的に償却します。償却額はのれん償却として、損益計算書の販売費及び一般管理費に計上します。仕訳は(借)のれん償却/(貸)のれん です。一方、負ののれん発生益は償却の対象ではなく、発生した期に一度だけ特別利益として計上して終わりです。なお、株式交換・株式移転や事業分離といった、合併以外の企業結合の会計処理は簿記1級の範囲です。

確認:のれんは20年以内で規則的に償却(のれん償却=販管費)。負ののれんは償却せず、発生時に特別利益で計上します。

ユイ合併で受け入れる資産は、相手の帳簿の金額をそのまま使ってはいけないのですか?

サクラ先生使いません。合併は相手を買い取る取引なので、受け入れる時点の値打ち、つまり時価で測り直します。時価で測った純資産と、支払った対価との差がのれんです。

ユイ簿価のまま計算すると、のれんの金額がずれてしまうのですね。

サクラ先生そのとおりです。「受け入れる資産・負債は時価」が出発点になります。

例題で型をつかむ

例題1(吸収合併とのれんの償却)

A社はB社を吸収合併した。合併にあたりB社の諸資産を時価800,000円、諸負債を時価300,000円と評価した。A社は対価として時価620,000円分のA社株式を交付し、全額を資本金とした。(1)合併時の仕訳と、(2)合併後1年目ののれん償却(20年・定額法)の仕訳を示しなさい。

  1. 受入純資産を求める:時価評価した諸資産800,000−諸負債300,000=受入純資産500,000。
  2. 対価を確認する:交付したA社株式の時価は620,000で、全額を資本金にします(払込資本)。
  3. のれんを求める:のれん=対価620,000−受入純資産500,000=120,000。対価のほうが大きいので借方の資産です。
  4. 4列に並べる:(借)諸資産800,000・のれん120,000/(貸)諸負債300,000・資本金620,000。借方・貸方とも920,000で一致します。
  5. 償却する:のれん120,000÷20年=6,000。(借)のれん償却6,000/(貸)のれん6,000。
例題1の答えの仕訳
場面借方科目借方金額貸方科目貸方金額
合併諸資産
のれん
800,000
120,000
諸負債
資本金
300,000
620,000
のれん償却のれん償却6,000のれん6,000

ここで迷ったら:受入純資産を簿価で評価しないこと(時価で評価)。のれんは対価−受入純資産で、対価のほうが大きければ借方の無形固定資産です。もし対価620,000が受入純資産500,000を下回っていたら、差額は負ののれん発生益(特別利益)になります。

よくあるミス

受入純資産を簿価で評価してしまう相手の帳簿価額をそのまま使うと、のれんの金額がずれます。合併は買い取る取引なので、受け入れる資産・負債は時価で評価し直します。時価評価した諸資産から諸負債を引いた額が受入純資産で、これが対価との比較の基準になります。
のれんと負ののれんを取り違える差額の向きを逆にするミスです。対価のほうが受入純資産より大きければ、借方に資産としてのれん。小さければ、貸方に負ののれん発生益(特別利益)です。負ののれんは資産にせず、その期に一度で利益計上する点に注意します。
のれんの償却年数や償却の要否を誤るのれんは20年以内で規則的に償却し、償却額はのれん償却(販管費)です。20年を超えて償却したり、償却しないままにしないようにします。反対に、負ののれんは償却せず、発生時に一度だけ特別利益で計上します。

ミニ演習(4問・即時採点)

Q1. 吸収合併で受け入れる資産・負債は、どの金額で評価しますか?(答えを見る)

合併時の時価で評価します。相手の帳簿価額(簿価)のままではありません。時価評価した資産から負債を引いた額が受入純資産となり、対価との差額がのれんになります。

Q2. 受入純資産500,000円に対し、対価620,000円の株式を交付した。のれんはいくらで、どちらに計上しますか?(答えを見る)

のれん120,000円を借方(無形固定資産)に計上します。のれん=対価620,000−受入純資産500,000=120,000円で、対価のほうが大きいので借方です。対価のほうが小さければ負ののれん発生益になります。

Q3. のれん120,000円を20年で定額法により償却する。1年分の償却額はいくらですか?(答えを見る)

6,000円です。120,000÷20年=6,000円。(借)のれん償却/(貸)のれん で処理します。負ののれんは償却せず、発生時に一度で利益計上する点と区別します。

Q4. 受入純資産よりも交付した対価のほうが小さいとき、その差額はどう処理しますか?(答えを見る)

負ののれん発生益として、発生した期の特別利益に計上します。資産計上して償却するのれんとは反対で、一度で利益にします。対価と受入純資産のどちらが大きいかで向きを判断します。

吸収合併では、受け入れる資産・負債を時価で評価して受入純資産を求め、交付した株式は払込資本で受けます。のれん=対価−受入純資産で、対価が大きければのれん(無形固定資産・20年以内で規則的に償却)、小さければ負ののれん発生益(特別利益・即時計上)です。次の単元では、決算整理と財務諸表を学びます。

対応する演習