原価の3要素(材料費・労務費・経費)と直接費/間接費
定義→判定手順→典型例を短時間で確認し、後続の配賦や計算に備えていきましょう。
このページの使い方
- 先に見る:用語集:原価の3要素
- 後で解く:ミニ問題(要素判定)
- つなぎ:製造間接費と予定配賦
本文骨子
はじめに
原価の学びは、まず何に使われたお金かを言葉で整理するところから始まります。材料は形になる費用、労務は人の働き、経費はそのほか(電気・保険・減価償却など)です。
理解の道筋
次に、製品へ直接ひも付けられるかで区分します。個別に追跡できるなら直接費、難しければ間接費。仕訳の型は「材料・賃金→仕掛」「間接費→予定配賦で仕掛」と覚えれば、流れに乗って理解できます。
手を動かす視点
名前で判断せず、用途と追跡可否を見ます。同じ塗料でも、ロット別に計量すれば直接材料費、一括補充なら製造間接費です。
まとめ(要点)
- 費目の定義:材料=形、労務=人、経費=その他。
- 直接/間接の判定はトレース可能性。
- 仕訳は「材料・賃金→仕掛」「間接費→配賦で仕掛」。
代表例と判定の早見表
| 品目/費用 | 費目 | 直接/間接 | 判定の軸(理由) |
|---|---|---|---|
| 木材(製品に組み込む) | 材料費 | 直接材料費 | 特定製品に個別トレース可 |
| 作業員の出来高賃金 | 労務費 | 直接労務費 | ジョブ/製品別に紐付く作業 |
| 工場長の給与 | 労務費 | 間接費 | 製品個別にトレース不可(全体管理) |
| 塗料・接着剤 | 材料費/経費 | 直接 or 間接 | ロット別に計量・記録できる=直接/都度一括補充=間接 |
| 減価償却費(工場設備) | 経費 | 間接費 | 製造に必要だが個別トレース不可 |
ミニ例
塗料をロット別に計量→直接材料費。一括補充→製造間接費。工場長の給与→間接費、作業員の出来高賃金→直接労務費。
解説(考え方の手順)
- 用途を見る:製品の形になるなら材料、作業に対する支払いなら労務、それ以外は経費です。
- 個別トレース可否で区分:製品・ジョブごとに数量や時間で追えるなら直接費、追えなければ間接費です。
- 仕訳の型に当てはめ:直接費はそのまま仕掛品へ、間接費は後で予定配賦で仕掛へ載せます。
適用例:
- 塗料(ロット別に計量)=材料費かつ個別トレース可 → 直接材料費。
- 塗料(一括補充)=個別トレース困難 → 製造間接費(経費として間接に計上)。
- 工場長の給与=管理活動で個別トレース不可 → 間接費(労務費の間接)。
- 作業員の出来高賃金=特定ジョブの作業時間に紐付く → 直接労務費。
完全版(数値つき・判定と仕訳)
| 品目 | 数量/金額 | 費目 | 直接/間接 | 仕訳の型 | 理由 |
|---|---|---|---|---|---|
| 机用木材 | 8枚/20,000円 | 材料費 | 直接材料費 | 仕掛品/材料 20,000 | 製品の形になり、数量で個別トレース可 |
| 接着剤(全ラインに一括補充) | 2L/3,000円 | 経費 | 間接費 | 製造間接費/現金 3,000 | 個別ロットに合理的に割り付け困難=間接 |
| 工場長の給与 | 300,000円 | 労務費 | 間接費 | 製造間接費/未払費用 300,000 | 全体管理で製品個別にトレース不可 |
| 組立作業賃金(#A102) | 120h×1,200=144,000円 | 労務費 | 直接労務費 | 仕掛品(#A102)/賃金 144,000 | ジョブ/製品に時間で紐付く=直接 |
メモリヒント:
用途 → トレース可否 → 仕訳の型(仕掛 or 製造間接費)。この順で判定します。
迷ったら用途と追跡可否で判断し、用語集の仕訳例TABLEで型を確認。
1分で型
- 役割で分ける:材料=形、労務=人の働き、経費=それ以外
- 直接費/間接費=トレース可能性(個別追跡できるか)
- 仕訳の型:材料・賃金→仕掛、間接は配賦で仕掛へ
この章のゴール
- 材料費・労務費・経費を正しく区分できる
- 直接費/間接費の判定基準を説明できる
- 演習で素早く判断できる
学ぶ順番
- 3要素の定義と例
- 直接費/間接費の判定基準(目的適合性)
- 材料投入・賃金・間接費の仕訳の型
取り違え注意
- 名前で判断しない(用途と追跡可否で決める)
- 同じ品目でも運用で変わる(接着剤など)
- 労務費の直接/間接は職務で変わる(作業員/管理)
そのまま手を動かす5問
- 工場の照明代は何費?直接/間接は?
- 外注部品の組立作業賃金は?
- 製品ロットごとに計量する塗料は?
- 工場長の給与は?
- 型代(特定製品専用)は?
参考解答(折りたたみ)
1) 工場の照明代は何費?直接/間接は?
製造間接費(間接費)です。個々の製品に追跡できないため、予定配賦で仕掛品へ割り当てます。
2) 外注部品の組立作業賃金は?
直接労務費が原則です(自社の組立作業員に支払う賃金)。外注先に支払う加工賃は外注加工費(経費)として扱うこともあります。
いずれも製品個別に追跡できるかが判断軸です。
3) 製品ロットごとに計量する塗料は?
直接材料費です。ロット単位で使用量を記録し、特定製品にトレース可能だからです。計量せずまとめて使用する運用なら製造間接費側に回ります。
4) 工場長の給与は?
製造間接費(間接費)です。製品個別にひも付けができず、工場運営全体に係るためです。
5) 型代(特定製品専用)は?
直接経費です。材料でも労務でもないが、特定製品にのみ発生し個別追跡できるため、直接費に区分します。
やさしい読み替え
- 直接費=「この製品のために使った」と言えるお金
- 間接費=「工場全体のためのお金」。あとでルールで配る
- 経費の代表=減価償却・電気・消耗品・保険料
判定チートシート(頻出パターン)
| 費目 | 直接費の典型 | 間接費の典型 | 仕訳キーワード |
|---|---|---|---|
| 材料費 | 主材料・買入部品の個別計量 | 消耗品・接着剤(一括使用) | 材料・仕掛 |
| 労務費 | 直接作業員の出来高・時間 | 工場長・保全・検査の賃金 | 賃金・仕掛/間接費 |
| 経費 | 型代(個別製品に紐付く場合) | 減価償却・水道光熱・保険料 | 間接費 振替・配賦 |
迷ったら「個別に追跡できるか(トレース可能性)」で判断。
対話でつかむ:3要素と直接費/間接費
本シリーズは同じ二人(講師と学習者)の会話で進行します。3分で要点をつかんでいきましょう。
学習者:材料費・労務費・経費の違いがあいまいです。
講師:まずは役割で見ます。材料費は「形になるもの」、労務費は「人の働き」、経費は「それ以外の製造に必要なもの」。
学習者:机を作るなら、木材は材料費、組立作業は労務費、工場の電気代は経費、ですね。
講師:そのとおり。次に「直接費/間接費」。製品ごとに追跡できるなら直接費、追跡が難しければ間接費です。
学習者:木材はこの机にいくら使ったか追えます。だから直接材料費。
講師:一方、工場の照明代は個々の机には割り切れない。だから製造間接費です。
学習者:同じ品目でも状況で変わることは?
講師:あります。例えば接着剤。特定の製品ロットごとに計量して記録するなら直接材料費、まとめて使って把握が難しければ間接費(経費)にします。目的適合性が判断軸です。
学習者:労務費の直接費/間接費は?
講師:製品に手をかける作業員の賃金は直接労務費、工場長・保全担当など製品個別に追えない人件費は間接費に入ります。
学習者:経費の例も教えてください。
講師:減価償却費、工場の水道光熱、消耗工具、工場保険料など。どれも製造には必要ですが、個別の製品へのトレースは難しいですね。
学習者:試験ではどこで迷いやすいですか?
講師:迷うのは「費目の名前」に引っ張られるとき。必ず用途と追跡可能性で判断します。短時間で型に当てはめられるように、演習で反射を作りましょう。
学習者:了解です。まずは名称より「役割とトレース」で決める、ですね。
もっと物語で理解したい方は、会話形式の読み物「物語対話講義」も活用してください。