製造間接費と予定配賦を一気に整理
予定配賦率→当月配賦→差異の処理を、最短手順で確認していきましょう。
このページの使い方
- 先に見る:用語集:予定配賦率
- 後で解く:ミニ問題(配賦/差異)
- つなぎ:補助部門費の配賦法
本文骨子
はじめに
製造間接費は、電力・保全・監督者賃金のように製品個別に真っ直ぐ載せにくい費用です。そのままでは月ごとの原価がブレるので、あらかじめ配賦のルール(予定配賦率)を決めて、落ち着いた原価で製品に割り当てます。
理解の道筋
まず、因果関係の強い配賦基準(作業時間・機械時間・直接労務費など)を選びます。次に、予算額÷予定基準量で予定配賦率を作り、当月は配賦率×実際基準量で各製品へ集計します。月末に実際発生額と比べたズレが配賦差異です。
手を動かす視点
配賦率の分母は必ず「予定」基準量。単位(円/時など)が整っているかも毎回確認しましょう。差異は、原則当期損益処理。指示があれば仕掛・製品・売上原価へ比例配分します。
まとめ(要点)
- 基準選定:因果関係の強い基準(作業/機械時間など)。
- 配賦率:予定配賦率=予算額÷予定基準量。
- 当月配賦:配賦額=配賦率×実際基準量(ズレ=配賦差異)。
- 処理:原則は当期損益、指示があれば比例配分。
配賦基準の例(選定の目安)
| 間接費の例 | 推奨基準 | 理由(因果関係) |
|---|---|---|
| 動力費(電気代) | 機械運転時間・kWh | 使用量に比例して発生 |
| 保全部門費 | 修理工数・修理件数 | サービス提供量に比例 |
| 監督者賃金 | 直接作業時間 | 管理対象の稼働に連動 |
| 工場用消耗品 | 直接労務費・直接作業時間 | 作業量の増減に連動 |
配賦差異の読み方(早見)
| 関係 | 方向 |
|---|---|
| 配賦額 > 実際発生額 | 過大配賦=有利差異 |
| 配賦額 < 実際発生額 | 過少配賦=不利差異 |
ミニ例
予算360,000円・予定時間1,800h → 配賦率200円/h。実際時間1,420h → 当月配賦284,000円。実際発生280,000円 → 差異+4,000円(有利)。
解説(導出の手順)
- 配賦基準の確認:作業時間(h)を用います。
- 予定配賦率=予算額÷予定基準量=360,000÷1,800=200円/h。
- 当月配賦額=配賦率×実際基準量=200×1,420=284,000円。
- 配賦差異=実際発生−配賦額=280,000−284,000=−4,000円。配賦額の方が大きい=過大配賦(有利)と読みます。
有利/不利は、実際発生額と配賦額の大小関係で判断します。
完全版(数値つき・配賦と差異)
| 与件 | 値 |
|---|---|
| 予算額(間接費) | 360,000円 |
| 予定基準量(作業時間) | 1,800h |
| 実際基準量(当月作業時間) | 1,420h |
| 実際発生額 | 280,000円 |
| 項目 | 式 | 結果 |
|---|---|---|
| 予定配賦率 | 360,000 ÷ 1,800 | 200円/h |
| 当月配賦額 | 200 × 1,420 | 284,000円 |
| 配賦差異 | 実際発生 280,000 − 配賦 284,000 | −4,000(過大=有利) |
メモリヒント:分母は予定基準量/単位整合(円/時×時間=円)/方向は配賦>実際=有利。
1分で型
- 予定配賦率=予算÷予定基準量
- 当月配賦=配賦率×実際基準量
- 差異=実際発生−配賦額(処理は指示に従う)
この章のゴール
- 予定配賦率(予算/基準量)の算定ができる
- 当月の製造間接費配賦額を算定できる
- 配賦差異の意味と処理を説明できる
学ぶ順番
- 配賦基準の選択(作業時間・機械時間 等)
- 予定配賦率の設定と当月配賦
- 実際発生額とのズレ=配賦差異の処理
取り違え注意
- 分母は予定基準量(実際ではない)
- 単位の整合(円/時×時間=円)
- 方向:配賦>実際=過大配賦(差異は有利)
そのまま手を動かす5問
- 予算30万・予定時間1,500の配賦率は?
- 配賦率200円/時・実際時間1,420の配賦額は?
- 実際額28万・配賦額29万の差異の名前と方向は?
- 非関連原価は差異処理に含める?(Yes/No)
- 比例配分の対象は何勘定?
参考解答(折りたたみ)
1) 予算30万・予定時間1,500の配賦率は?
配賦率=300,000 ÷ 1,500 = 200円/時。分母は予定基準量を用いる点に注意。
2) 配賦率200円/時・実際時間1,420の配賦額は?
当月配賦額=200 × 1,420 = 284,000円。式は配賦率×実際基準量。
3) 実際額28万・配賦額29万の差異の名前と方向は?
過大配賦(有利)。配賦額>実際発生額なので、差額10,000円有利です。
4) 非関連原価は差異処理に含める?(Yes/No)
No。差異処理は配賦額と実際発生のズレに限って扱います。
5) 比例配分の対象は何勘定?
仕掛品・製品・売上原価です。指示がある場合、各勘定の残高に比例して差異を配分します。
完全版:配賦差異の比例配分(数値つき)
指示がある場合、配賦差異は仕掛・製品・売上原価へ比例配分します(基準は「各勘定に含まれる配賦済み間接費が一般的」)。
与件と配分
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 配賦差異(過大=有利) | 12,000 |
| 仕掛品に含まれる配賦済み間接費 | 30,000 |
| 製品に含まれる配賦済み間接費 | 50,000 |
| 売上原価に含まれる配賦済み間接費 | 70,000 |
合計150,000に対する比率:WIP20%、製品33.3%、売上原価46.7%
| 勘定 | 配分差異 |
|---|---|
| 仕掛品 | 12,000×20%=2,400 |
| 製品 | 12,000×33.3%≈4,000 |
| 売上原価 | 12,000×46.7%≈5,600 |
仕訳例(過大配賦=有利):
製造間接費差異 12,000/仕掛品 2,400・製品 4,000・売上原価 5,600
(過少配賦=不利のときは借方と貸方が逆になります)
メモリヒント:比例配分の母数は指示に従う(配賦済み間接費が基本)。有利差異は各勘定を減額、不利差異は増額方向で仕訳。
やさしい読み替え
- 予定配賦=「ぶれをならすための平均ルール」
- 差異=「ならした額」と「実際の支出」のズレ
- 処理=「ズレをどこに載せ直すか」の決め事
対話でつかむ:製造間接費と予定配賦
同じ二人(講師/学習者)の会話で、配賦率→配賦額→差異の読み方を一気に押さえます。
学習者:どうして実際発生額でなく予定配賦率を使うのですか?
講師:毎月の実際額は季節や稼働でブレます。そこで、予算÷予定基準量で滑らかな配賦率を作り、製品原価を安定させるのです。
学習者:基準量は作業時間・機械時間・直接労務費などから選ぶ、と。
講師:はい。ポイントは因果関係。間接費の大きな要因と結び付く基準を採用します。
学習者:当月は配賦率×実際基準量=配賦額、ですね。
講師:そのとおり。期末に実際発生額と比べて、配賦差異(過大/過小配賦)を把握します。
学習者:配賦差異はどう処理しますか?
講師:指示に従い、原則は当期損益処理。場合によっては仕掛・製品・売上原価へ比例配分もあります。
学習者:試験でのつまずきは?
講師:①分母の取り違え(予定基準量を使う)、②単位の混在(円/時×時間=円)、③差異の方向(配賦>実際なら過大配賦)です。型を守れば怖くありません。
学習者:了解です。配賦率→配賦額→差異の順に必ず並べます。
物語での現場感は「第3話:予定配賦と差異」も参考にしてください。
過大/過少配賦の早見表
| 実際発生額 vs 配賦額 | 名称 | 意味 |
|---|---|---|
| 配賦額 > 実際発生額 | 過大配賦 | 配賦し過ぎ(差異は有利) |
| 配賦額 < 実際発生額 | 過少配賦 | 配賦不足(差異は不利) |
処理:当期損益処理が原則(指示あれば仕掛・製品・売上原価へ比例配分)。
予定配賦の型(例)
| 項目 | 数値 | メモ |
|---|---|---|
| 予算製造間接費 | 300,000 | 円 |
| 予定基準量(直接作業時) | 1,500 | 時間 |
| 予定配賦率 | 200 | 円/時 = 300,000 ÷ 1,500 |
| 当月の実際基準量 | 1,420 | 時間 |
| 当月配賦額 | 284,000 | 円 = 200 × 1,420 |