勘定連絡図と工業簿記の構造

材料の購入から製品の販売まで、工業簿記では原価が「材料→仕掛品→製品→売上原価」と勘定の間を流れていきます。この流れを1枚の図にしたものが勘定連絡図です。これまでの単元で学んだ計算をこの地図の上に置き直し、製造原価報告書の作り方から、財務諸表への表示、工場会計の独立までを固めていきましょう。

この単元で身につくこと

まずイメージ:原価はバケツリレーのように勘定を流れる

「今日の完成品、仕掛から製品へ振り替えますね」——工場の経理では、こんな会話が毎日のように交わされます。工業簿記の勘定は原価の通り道です。買った材料は材料勘定に入り、使った分が仕掛品へ、完成した分が製品へ、売れた分が売上原価へと、バケツリレーのように運ばれていきます。

この通り道の全体図が勘定連絡図です。「原価の3要素と直接費・間接費」で学んだ費目別計算も、「製造間接費と予定配賦」で学んだ配賦も、個別原価計算や総合原価計算も、すべてこの地図のどこかで行われる計算でした。どの勘定でも「期首の残高+当期の増加−当期の減少=期末の残高」が成り立つ、というたった1つのルールで全体がつながります。

勘定連絡図で追う原価の流れ

流れを順にたどりましょう。材料を買うと材料勘定の借方に取得原価が入ります。消費したとき、特定の製品のために使った直接材料費は仕掛品勘定へ、工場全体で使った間接材料費は製造間接費勘定へ振り替えます。賃金も同じで、直接工の直接作業分は仕掛品へ、それ以外は製造間接費へ。間接経費も製造間接費に集め、集まった製造間接費は配賦によって仕掛品へ乗せます。ここまでが原価を仕掛品に「集める」段階です。

あとは2つの振替だけです。製品が完成したら仕掛品勘定から製品勘定へ、製品を販売したら製品勘定から売上原価勘定へ振り替えます。次の図は、月初の残高がゼロの月の流れ全体を数値で表したものです。

図の見方:左から右へ、矢印の金額がそのまま振替仕訳の金額です。各勘定で「入った合計−出た合計=残高」を計算し、どこかが合わなければ振替のもれか二重計上を疑います。

図の矢印を仕訳の形に直すと、次の型に整理できます。原価の行き先が借方、出どころが貸方という向きは、どの振替でも共通です。

勘定連絡の振替仕訳の型(金額は図の例)
取引借方科目貸方科目金額
材料の消費(直接分)仕掛品材料800
賃金の消費(直接分)仕掛品賃金600
間接材料費・間接労務費・間接経費の集計製造間接費材料・賃金・経費など
製造間接費の配賦仕掛品製造間接費400
完成製品仕掛品1,600
販売(原価の振替)売上原価製品1,200

確認:販売時の仕訳は2本立てです。売上の計上(売掛金など/売上)と、原価の振替(売上原価/製品)を別々に切ります。

ユイ完成や販売の振替仕訳で、どちらの勘定を借方に書くか毎回迷ってしまいます。

サクラ先生原価の行き先が借方、出どころが貸方です。完成なら原価は仕掛品から製品へ動くので、借方は製品、貸方は仕掛品になります。

ユイ販売のときは行き先が売上原価だから、借方は売上原価ですね。

サクラ先生そのとおりです。勘定連絡図の矢印の向きが、そのまま仕訳の借方・貸方に対応すると覚えましょう。

製造原価報告書の作り方

製造原価報告書は、勘定連絡図の「材料→仕掛品→製品」の部分、つまり仕掛品勘定の中身を報告書の形式に書き直したものです。上から順に、当期に使った直接材料費・直接労務費・製造間接費を積み上げて当期総製造費用を出し、期首仕掛品を足して期末仕掛品を引くと、最終行の当期製品製造原価(完成品の原価)にたどり着きます。

製造原価報告書(数値例)
摘要金額(円)
期首材料棚卸高8,000
当期材料仕入高42,000
 材料の合計50,000
期末材料棚卸高(差引)10,000
直接材料費40,000
直接労務費35,000
製造間接費(配賦額)25,000
当期総製造費用100,000
期首仕掛品棚卸高20,000
 合計120,000
期末仕掛品棚卸高(差引)40,000
当期製品製造原価80,000

材料の段(期首8,000+仕入42,000−期末10,000=40,000)と仕掛品の段(当期100,000+期首20,000−期末40,000=80,000)は、どちらも「期首+当期の増加−期末=当期の減少」という同じ型です。最終行の当期製品製造原価80,000円は、勘定連絡図でいえば「仕掛品→製品」の矢印の金額に当たります。

確認:期首は足す、期末は引く。材料の段と仕掛品の段で同じ計算を2回行い、最後の行が製品勘定への受入額になります。

財務諸表の表示と月次決算

製造原価報告書の最終行は、損益計算書へバトンを渡します。損益計算書の売上原価は「期首製品棚卸高+当期製品製造原価−期末製品棚卸高」で計算します。商業簿記で学んだ売上原価の計算(期首商品+当期仕入−期末商品)の「当期仕入」が「当期製品製造原価」に置き換わった形です。先ほどの例で期首製品がゼロ、期末製品が20,000円なら、売上原価は0+80,000−20,000=60,000円になります。

一方、期末に残った材料・仕掛品・製品の残高は、まだ費用になっていない資産として貸借対照表に表示されます。行き先を1枚の表で整理しましょう。

勘定残高と財務諸表のつながり(数値は本文の例)
項目行き先表示のされ方
材料の期末残高 10,000円貸借対照表流動資産(棚卸資産:材料)
仕掛品の期末残高 40,000円貸借対照表流動資産(棚卸資産:仕掛品)
製品の期末残高 20,000円貸借対照表流動資産(棚卸資産:製品)
当期製品製造原価 80,000円製造原価報告書の最終行損益計算書の売上原価の内訳へ
売上原価 60,000円損益計算書売上高から差し引く費用

なお、工業簿記では原価計算期間として1か月を使うのが一般的で、月ごとに原価を集計して損益をつかみます(月次決算)。問題文で「月初・月末」という言葉が多いのはこのためで、年度の財務諸表では「期首・期末」と読み替えるだけで、計算の型はまったく同じです。

確認:残高(材料・仕掛品・製品)は貸借対照表の棚卸資産へ、流れた原価(当期製品製造原価→売上原価)は損益計算書へ。1つの金額は必ずどちらか一方にだけ表示されます。

工場会計の独立——本社勘定と工場勘定

工場の規模が大きくなると、工場の帳簿を本社の帳簿から独立させることがあります。工場側の帳簿には材料・賃金・製造間接費・仕掛品・製品といった製造に関する勘定を置き、買掛金・売掛金・現金などそれ以外の勘定は本社側に残します。どの勘定を工場に置くかは問題文に指定されるので、まずその指定を確かめます。

帳簿が2冊に分かれると、1つの取引が本社と工場の両方にまたがることがあります。そのつなぎ役が、工場側の帳簿に置く「本社」勘定と、本社側の帳簿に置く「工場」勘定です。相手の帳簿にある勘定は使えないので、相手に関係する部分をこの勘定で受けます。対応する2つの仕訳を例で確かめましょう。

例1:材料3,000円を掛けで購入し、工場の倉庫へ受け入れた(材料勘定は工場、買掛金勘定は本社に置く)
帳簿借方科目借方金額貸方科目貸方金額
工場側材料3,000本社3,000
本社側工場3,000買掛金3,000

工場は材料という資産を受け取りましたが、買掛金勘定は本社にしかないため、貸方を「本社」で受けます。本社は仕入先への買掛金を計上しつつ、借方を「工場」で受けます。もう1例見てみましょう。

例2:工場の従業員への賃金2,000円を本社が現金で支払った(賃金勘定は工場、現金勘定は本社に置く)
帳簿借方科目借方金額貸方科目貸方金額
工場側賃金2,000本社2,000
本社側工場2,000現金2,000

2つの例のあとの残高を確かめると、本社側の「工場」勘定は借方残高5,000円(3,000+2,000)、工場側の「本社」勘定は貸方残高5,000円で、貸借が逆向きで必ず一致します。本社勘定と工場勘定は、お互いの帳簿を映し合う鏡のような関係です。

確認:仕訳の手順は「①その帳簿にある勘定で書けるところまで書く→②書けない相手方を本社勘定(工場側)または工場勘定(本社側)で受ける」の2段階です。

例題で型をつかむ

例題1(勘定連絡の通し穴埋め)

当期の資料は次のとおりである。期首仕掛品20,000円、当期総製造費用100,000円、当期の完成品原価80,000円。期首製品はゼロで、当期に販売した製品の原価は60,000円である。(1)期末仕掛品と期末製品の残高、(2)完成時と販売時の振替仕訳を答えなさい。

  1. 仕掛品勘定を整理する:期首20,000+当期投入100,000−完成80,000=期末仕掛品40,000円です。
  2. 製品勘定を整理する:期首0+完成品受入80,000−売上原価60,000=期末製品20,000円です。
  3. 仕訳の型を当てはめる:完成は「製品/仕掛品」、販売の原価振替は「売上原価/製品」です。
  4. 検算する:どの勘定も「期首+増加−減少=期末」が成り立つことを確かめます。
例題1の答え(1):勘定の整理
勘定期首当期の増加当期の減少期末
仕掛品20,000100,00080,00040,000
製品080,00060,00020,000
例題1の答え(2):振替仕訳
取引借方科目借方金額貸方科目貸方金額
完成製品80,000仕掛品80,000
販売売上原価60,000製品60,000

ここで迷ったら:売上原価へ振り替えるのは「販売した分」の60,000円だけです。完成した80,000円をそのまま売上原価にすると、期末製品20,000円が消えてしまいます。

例題2(製造原価報告書から損益計算書へ)

当期の資料は次のとおりである。期首材料5,000円・当期材料仕入高45,000円・期末材料8,000円(材料はすべて直接材料として消費)、直接労務費30,000円、製造間接費配賦額18,000円、期首仕掛品15,000円・期末仕掛品25,000円、期首製品10,000円・期末製品30,000円。当期製品製造原価と売上原価を求めなさい。

  1. 直接材料費を計算する:5,000+45,000−8,000=42,000円です。
  2. 当期総製造費用を計算する:42,000+30,000+18,000=90,000円です。
  3. 当期製品製造原価を計算する:90,000+期首仕掛品15,000−期末仕掛品25,000=80,000円です。
  4. 売上原価を計算する:期首製品10,000+80,000−期末製品30,000=60,000円です。
例題2の答え:報告書から損益計算書までの計算
摘要金額(円)
直接材料費(5,000+45,000−8,000)42,000
直接労務費30,000
製造間接費(配賦額)18,000
当期総製造費用90,000
+期首仕掛品棚卸高15,000
−期末仕掛品棚卸高25,000
当期製品製造原価80,000
+期首製品棚卸高10,000
−期末製品棚卸高30,000
売上原価60,000

ここで迷ったら:材料・仕掛品・製品の3段とも「期首+増加−期末」という同じ型です。期首と期末のどちらを引くかで迷ったら、「期末に残った分はまだ流れていない」から差し引く、と考えましょう。

よくあるミス

期首と期末の足し引きを逆にする式を丸暗記していて、数字の居場所のイメージがないために起こるミスです。T字勘定やボックス図に数字を書き込み、「期首+当期の増加−期末=当期の減少」を毎回同じ位置関係で確かめる習慣で防げます。
製造間接費を二重に数える間接材料費や間接労務費を直接費側に残したまま、製造間接費の配賦額も足してしまうために起こるミスです。消費額はまず直接分と間接分に一度だけ振り分け、仕掛品には「直接費+配賦された製造間接費」だけを集めると整理できます。
当期製品製造原価をそのまま売上原価として損益計算書に載せる「完成した分=売れた分」という思い込みから起こるミスです。損益計算書側で必ず「期首製品+当期製品製造原価−期末製品」の一段を挟み、完成と販売のずれ(期末製品)を反映させましょう。

ミニ演習(5問・即時採点)

Q1. 製品が完成したときの振替仕訳はどれですか?(答えを見る)

(借)製品/(貸)仕掛品です。原価の行き先(製品)が借方、出どころ(仕掛品)が貸方になります。販売時の「売上原価/製品」と混同しないようにしましょう。

Q2. 直接材料費・直接労務費・直接経費と、配賦された製造間接費が集まる勘定はどれですか?(答えを見る)

仕掛品勘定です。直接費は直接、間接費は製造間接費勘定を経由して配賦で、いずれも仕掛品に集まります。

Q3. 仕掛品勘定が期首20,000円・当期の製造費用100,000円・完成品原価80,000円のとき、期末残高はいくらですか?(答えを見る)

40,000円です。期首20,000+当期増加100,000−完成80,000=40,000円になります。

Q4. 期末に残った材料・仕掛品・製品の残高は、財務諸表のどこに表示されますか?(答えを見る)

貸借対照表の棚卸資産(流動資産)です。まだ費用になっていない資産として表示されます。

Q5. 工場会計を独立させた場合、工場側の帳簿で本社との取引を受ける勘定はどれですか?(答えを見る)

本社勘定です。工場側は「本社」勘定、本社側は「工場」勘定で受け、両者の残高は貸借逆向きで一致します。

原価は材料→仕掛品→製品→売上原価へ流れ、各勘定で「期首+当期の増加−当期の減少=期末」が成り立ちます。仕掛品勘定の中身を報告書の形にしたものが製造原価報告書で、最終行の当期製品製造原価は損益計算書の売上原価の内訳へつながり、期末の材料・仕掛品・製品は貸借対照表の棚卸資産になります。工場会計を独立させたときは、本社勘定・工場勘定が2冊の帳簿のつなぎ役です。次の単元では、利益計画のためのCVP分析を学びます。

対応する演習