意思決定の基礎(差額原価・関連原価)
増減に着目して考える型に慣れ、実務で使える判断材料へつなげていきましょう。
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本文骨子
はじめに
意思決定のコツは、選んだら変わるものだけを見ることです。過去に払って回収できない沈没原価や、どちらを選んでも変わらない共通固定費は横に置きましょう。
理解の道筋
追加受注の判断は、受けた場合に増える売上から増える変動費と必要な追加固定費を引いた差で考えます(差額貢献がプラスなら採用の方向)。自製か外注かの比較では、自製の追加原価と外注価格を公平に比べ、資源がふさがっているなら機会費用も加えます。
手を動かす視点
表を作るときは、列を「採用/不採用」「自製/外注」に分け、差額欄だけを読めばOKです。合計欄に惑わされず、変わるところだけを拾う訓練をしましょう。
まとめ(要点)
- 比較は将来の増減分(差額)だけを見る(沈没・共通固定は除外)。
- 追加受注:差額貢献=売上−変動費−追加固定費 > 0?
- 自製/外注:自製の追加原価 vs 外注価格(+必要なら機会費用)。
差額比較の表(テンプレート)
| 項目 | 採用(自製) | 不採用(外注) | 差額(採用−不採用) |
|---|---|---|---|
| 売上(ある場合) | |||
| 変動費(単価×数量) | |||
| 追加固定費(必要時) | |||
| 機会費用(必要時) | |||
| 差額貢献(判定) | |||
ミニ例
追加受注 単価900・単位変動費700・数量400・追加固定0 → 差額貢献80,000(採用可)。自製 追加原価680 vs 外注720 → 自製が有利(ただし機会費用が50/個なら外注が有利)。
解説(導出の手順)
- 関連原価だけを列挙:選択で増減する売上・変動費・追加固定費・機会費用。
- 追加受注:差額貢献=(900−700)×400−0=80,000>0 → 採用。
- 自製外注:自製680 vs 外注720 → 差額−40(自製が有利)。機会費用50/個があると、実質自製730(680+50)>外注720 → 外注有利。
完全版(数値つき・差額比較)
| 項目 | 受注 | 受注しない | 差額 |
|---|---|---|---|
| 売上 | 900×400=360,000 | 0 | +360,000 |
| 変動費 | 700×400=280,000 | 0 | −280,000 |
| 追加固定費 | 0 | 0 | 0 |
| 差額貢献 | +80,000(採用) | ||
| 項目 | 自製 | 外注 | 差額(自製−外注) |
|---|---|---|---|
| 追加原価/価格 | 680 | 720 | −40(自製有利) |
| 機会費用(制約あり) | +50 | — | +50 → +10(外注有利) |
メモリヒント:差額だけを見る/遊休なら機会費用0、制約ありは機会費用を加える。
1分で型
- 関連原価=選択で将来増減するコストだけを見る
- 沈没原価・共通固定費など増減しないコストは除外
- 差額貢献(限界利益)で追加受注や自製外注を判断
この章のゴール
- 差額原価・関連原価の定義を説明できる
- 追加受注・自製外注の判断をモデル化できる
- ボトルネックの制約下での優先順位を示せる
学ぶ順番
- 差額原価・関連原価の定義
- 典型問題(追加受注/自製外注)の型
- 制約条件下の意思決定
対話でつかむ:差額原価・関連原価
講師/学習者の会話で、増減にだけ注目する型を身体化します。
学習者:非関連原価って具体的に何を切り捨てますか?
講師:代表は沈没原価(過去に払って取り返せない費用)。将来の選択で増減しないものは比較から除きます。
学習者:追加受注の判断は?
講師:受ける/受けないで変わるものだけを差額で比較。遊休能力があるなら、限界利益がプラスかどうかが基準です。
学習者:自製か外注かは?
講師:自製の追加原価と外注価格を比較。機会費用(遊休でない設備の他用途利益)も関連なら加えます。
学習者:ボトルネックがあるときの製品ミックスは?
講師:制約1単位あたりの限界利益(例:1時間あたり)を計算して高い順に優先します。
学習者:数字が増えても、見るのは差額だけ、と。
講師:はい。全体ではなく、選択で変わる部分に目を向けるのが意思決定の鉄則です。
取り違え注意
- 共通固定費(選択で不変)を混ぜない
- 機会費用を忘れない(遊休でない資源)
- 合計値で比較せず、差額(増減分)で比較
そのまま手を動かす5問
- 沈没原価の例を1つ挙げる。
- 追加受注は何基準で判断?
- 自製外注は何と何を比べる?
- 制約1時間あたりの何を比べる?
- 関連原価の定義を一言で。
参考解答(折りたたみ)
1) 沈没原価の例
取得済み設備の簿価、過去の研究開発費など。将来の選択で増減しないため比較から除外します。
2) 追加受注の判断基準
差額貢献利益>0。遊休能力がある前提で、受けた場合に増える利益がプラスなら受注が合理的です。
3) 自製外注で比べるもの
自製の追加原価と外注価格。資源に遊休がない場合は機会費用も関連原価として加えます。
4) 制約1時間あたりに比べるもの
限界利益÷制約資源の時間。1時間あたりの貢献が高い順に優先します。
5) 関連原価の定義
選択によって将来増減するコスト。変わらないコスト(沈没・共通固定費など)は比較に入れません。
やさしい読み替え
- 関連原価=「選ぶと変わるお金だけを見る」
- 沈没原価=「過去に払って取り戻せないお金」
- 機会費用=「別の使い方をしたら得られた利益」
関連原価と非関連原価(早見)
| 区分 | 含める? | 例 |
|---|---|---|
| 差額原価(将来増減) | 含める | 追加材料費・追加工賃・外注価格・機会費用 |
| 沈没原価(既に発生) | 含めない | 取得済み設備の簿価・過去の開発費 |
| 共通固定費(選択で不変) | 原則含めない | 本社費 など(ただし配賦指示があれば別) |