標準原価計算と差異分析
先に「あるべき原価」のものさし(標準原価)を決めておき、実際原価とのズレを原因別に分解して読むのが標準原価計算です。材料費・労務費・製造間接費の差異分析から、パーシャル・プランとシングル・プランの記帳、売上原価加減法による処理までを一続きで固めていきましょう。
この単元で身につくこと
- 標準原価カードから、当月の生産量に応じた標準原価と許容標準数量・時間を計算できます。
- 材料費・労務費・製造間接費の差異を公式どおりに分解し、有利・不利を判定できます。
- パーシャル・プランとシングル・プランの記帳を書き分け、差異を売上原価加減法で処理できます。
まずイメージ:先に「ものさし」を作り、ズレを原因別に読む
実際にかかった原価の金額だけを見ても、それが高いのか安いのか、どこに手を打てばよいのかは分かりません。そこで標準原価計算では、科学的・統計的な調査にもとづいて「この製品1個は本来いくらで作れるはずか」という標準原価を先に設定し、実際原価との差(原価差異)を原因別に分解します。差異の分解パターンは費目ごとに決まっており、次の表の組み合わせがこの単元の全体地図です。
| 費目 | 分解する差異 | ズレの原因 |
|---|---|---|
| 直接材料費 | 価格差異・数量差異 | 買値のズレ/使った量のズレ |
| 直接労務費 | 賃率差異・時間差異 | 賃率のズレ/作業時間のズレ |
| 製造間接費 | 予算差異・能率差異・操業度差異 | 予算のズレ/能率のズレ/操業度のズレ |
図の見方:どの費目も「単価側のズレ」と「量側のズレ」に分ける、という同じ発想でできています。製造間接費だけは固定費が混ざるため、3つ目の操業度差異が加わります。
標準原価カードと標準原価の設定
標準原価は、製品1個当たりの標準原価カードとして持ちます。カードには費目ごとに「標準単価×標準消費量」の形で書き込みます。
| 費目 | 標準単価 | 標準消費量 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 直接材料費 | 500円/kg | 2kg | 1,000 |
| 直接労務費 | 1,200円/時 | 2時間 | 2,400 |
| 製造間接費 | 500円/時 | 2時間 | 1,000 |
| 1個当たり標準原価 | 4,400 |
当月の標準原価は、このカードを当月の実際生産量の分だけ引き伸ばして計算します。実際生産量が100個なら当月の標準原価は4,400円×100個=440,000円で、材料について「使ってよい量」は100個×2kg=200kgです。この、実際生産量に対して認められる標準の量を許容標準数量(許容標準時間)と呼び、差異分析の比較相手になります。予定していた生産量ではなく、実際に作った量に対する標準と比べる——ここが標準原価計算の公平なところです。
確認:標準は1個当たりのカードで持ち、「実際生産量×カードの標準」で当月のものさしを作ります。
差異分析——材料費・労務費・製造間接費
材料費差異——価格差異と数量差異
与件で確認します。標準価格500円/kg・許容標準数量1,150kgに対し、実際価格480円/kg・実際消費数量1,200kgでした。まず総差異は、実際発生額576,000円(480×1,200)−標準原価575,000円(500×1,150)=1,000円の不利差異です。これを2つに分解します。
価格差異=(実際価格−標準価格)×実際数量=(480−500)×1,200=△24,000円。実際のほうが安く買えているので24,000円の有利差異です。数量差異=(実際数量−許容標準数量)×標準価格=(1,200−1,150)×500=+25,000円。予定より50kg多く使っているので25,000円の不利差異です。有利24,000円と不利25,000円を合わせると、総差異の不利1,000円と一致します。
図の見方:価格差異は「価格のズレ×実際数量(横の帯)」、数量差異は「数量のズレ×標準価格(縦の帯)」です。右上の重なる角は、実際数量の全幅で計算する価格差異の側に含めます。
差異は金額を出して終わりではなく、原因を探る手掛かりとして読みます。たとえば原材料の相場変動が大きい時期には、購買努力と関係なく価格差異が膨らむことがあります。一方、数量差異が続けて不利なら、作業方法や材料の歩留まりに改善の余地があるかもしれません。
労務費差異——賃率差異と時間差異
労務費も同じ形です。標準賃率1,200円/時・許容標準時間1,420時間に対し、実際賃率1,280円/時・実際直接作業時間1,500時間だったとします。賃率差異=(実際賃率−標準賃率)×実際時間=(1,280−1,200)×1,500=120,000円の不利差異、時間差異=(実際時間−許容標準時間)×標準賃率=(1,500−1,420)×1,200=96,000円の不利差異です。「単価側のズレは実際の量に掛け、量側のズレは標準の単価で評価する」という対応が、材料費とまったく同じことを確かめてください。
製造間接費差異——公式法変動予算と三分法
製造間接費の差異は、予算差異・能率差異・操業度差異の3つまで見通せると得点源になります。前提になるのが公式法変動予算です。操業度が予定より少ない月に、もとの予算額とそのまま比べて「使いすぎ」と判定するのは不公平なので、予算許容額=変動費率×実際操業度+固定費予算額と、実際の操業度に応じて予算を作り直してから比べます。
与件は、変動費率300円/時・固定費予算200,000円・基準操業度1,000時間(固定費率=200,000÷1,000=200円/時、標準配賦率=300+200=500円/時)、当月の実際操業度1,050時間・標準操業度980時間・実際発生額525,000円です。総差異は、標準配賦額490,000円(500×980)−実際発生額525,000円=35,000円の不利差異で、三分法(能率差異を変動費率で計算する方法)では次のように分解します。
| 差異 | 式と計算 | 結果 |
|---|---|---|
| 予算差異 | 予算許容額(300×1,050+200,000=515,000)−実際発生額525,000 | 10,000円の不利 |
| 能率差異 | (標準操業度980−実際操業度1,050)×変動費率300 | 21,000円の不利 |
| 操業度差異 | (標準操業度980−基準操業度1,000)×固定費率200 | 4,000円の不利 |
| 総差異 | 10,000+21,000+4,000 | 35,000円の不利 |
補足として、実際発生額の内訳(変動費315,000円・固定費210,000円)が与えられたときは、予算差異をさらに変動費分と固定費分に分けて4つで見ることもできます(四分法)。変動費予算差異は315,000−300×1,050=0円、固定費予算差異は210,000−200,000=10,000円の不利で、能率差異21,000円の不利・操業度差異4,000円の不利と合わせれば、合計は同じ35,000円の不利です。
| 三分法 | 四分法での内訳 | 本例の金額 |
|---|---|---|
| 予算差異 10,000不利 | 変動費予算差異/固定費予算差異 | 0円/10,000円の不利 |
| 能率差異 21,000不利 | 変動費能率差異 | 21,000円の不利 |
| 操業度差異 4,000不利 | 操業度差異 | 4,000円の不利 |
確認:どの費目も「単価×量」に分解し、単価のズレは実際の量で、量のズレは標準の単価で測ります。間接費は予算許容額を作ってから比べる点だけが追加ルールです。
ユイ価格差異は実際数量に掛けるのに、数量差異は標準価格に掛けるのはどうしてですか?
サクラ先生2つの差異で責任の重なりを避けるためです。価格のズレは実際に買った量の全体に効くので実際数量で測り、量のズレは価格変動の影響を除いて測りたいので標準価格で評価します。
ユイでは「価格差異は実際数量、数量差異は標準価格」とセットで覚えます。
サクラ先生はい。労務費も同じ対応で、賃率差異は実際時間、時間差異は標準賃率と組みます。面積図の帯の向きで確かめると忘れにくいですよ。
記帳方式——パーシャル・プランとシングル・プラン
標準原価計算を帳簿に載せるとき、仕掛品勘定に「実際」と「標準」のどちらで記入するかで、2つの方式があります。パーシャル・プランは、仕掛品勘定の借方へ実際原価で記入する方式です。貸方(完成品など)は標準原価で出ていくため、差異は仕掛品勘定の中で把握され、そこから各差異勘定へ振り替えます。シングル・プランは、仕掛品勘定の借方へ最初から標準原価で記入する方式です。差異は材料・賃金・製造間接費といった各費目の勘定で把握されます。
| 項目 | パーシャル・プラン | シングル・プラン |
|---|---|---|
| 仕掛品勘定の借方 | 実際原価 | 標準原価 |
| 差異を把握する場所 | 仕掛品勘定 | 各費目の勘定(材料・賃金など) |
| 覚え方 | 実際で入れて、仕掛品で差異を抜く | 仕掛品は標準一本(シングル) |
材料費差異の数値(実際消費576,000円・標準575,000円・価格差異24,000円の有利・数量差異25,000円の不利)で、同じ取引を2方式で記帳してみます。
| 取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|---|
| 材料の消費(実際) | 仕掛品 | 576,000 | 材料 | 576,000 |
| 数量差異の振替 | 材料数量差異 | 25,000 | 仕掛品 | 25,000 |
| 価格差異の振替 | 仕掛品 | 24,000 | 材料価格差異 | 24,000 |
| 取引 | 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|---|
| 材料の消費(標準) | 仕掛品 | 575,000 | 材料 | 575,000 |
| 数量差異の振替 | 材料数量差異 | 25,000 | 材料 | 25,000 |
| 価格差異の振替 | 材料 | 24,000 | 材料価格差異 | 24,000 |
どちらの方式でも、振替が終われば仕掛品勘定に載る材料費は標準の575,000円になり、差異勘定には数量差異25,000円(借方=不利)と価格差異24,000円(貸方=有利)が残ります。違いは差異を「どの勘定から」抜いたか——パーシャル・プランは仕掛品から、シングル・プランは材料からです。
なお、両者を組み合わせた修正パーシャル・プランは1級(簿記1級)の範囲です。
確認:仕掛品勘定の借方が実際ならパーシャル・プラン、標準ならシングル・プラン。「シングル=仕掛品は標準一本」で覚えましょう。
差異の会計処理——売上原価加減法
各差異勘定に集まった原価差異は、原則として会計期末に売上原価へ賦課します。不利差異(借方残高)はコストが標準より多くかかった分なので売上原価に加算し、有利差異(貸方残高)は売上原価から減額します。「製造間接費と予定配賦」で学んだ配賦差異の売上原価加減法と同じ考え方です。
確認:不利=売上原価にプラス、有利=売上原価からマイナス。差異勘定の残高が借方か貸方かを見れば、振替仕訳の向きは自動的に決まります。
例題で型をつかむ
当月の直接材料費について、標準価格は500円/kg、当月の実際生産量に対する許容標準数量は1,150kgである。実際には、1kg当たり480円で1,200kgを消費した。総差異を求め、価格差異と数量差異に分解しなさい(有利・不利も判定すること)。
- 総差異を計算する:実際発生額480×1,200=576,000円、標準原価500×1,150=575,000円で、総差異は1,000円の不利です。
- 価格差異を計算する:(実際価格480−標準価格500)×実際数量1,200=△24,000円。安く買えたので24,000円の有利差異です。
- 数量差異を計算する:(実際数量1,200−許容標準数量1,150)×標準価格500=+25,000円。多く使ったので25,000円の不利差異です。
- 照合する:有利24,000円+不利25,000円=差引1,000円の不利で、総差異と一致します。
| 差異 | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
| 価格差異 | (480−500)×1,200 | 24,000円の有利 |
| 数量差異 | (1,200−1,150)×500 | 25,000円の不利 |
| 総差異 | 576,000−575,000 | 1,000円の不利 |
ここで迷ったら:価格差異に掛けるのは実際数量1,200kgです。許容標準数量1,150kgに掛けると、2つの差異の合計が総差異と一致しなくなるので、照合まで行えば間違いに気づけます。
当月の直接労務費について、標準賃率は1,200円/時、許容標準時間は1,420時間である。実際には、賃率1,280円/時で1,500時間作業した。賃率差異と時間差異を求めなさい。
- 賃率差異を計算する:(実際賃率1,280−標準賃率1,200)×実際時間1,500=120,000円の不利差異です。
- 時間差異を計算する:(実際時間1,500−許容標準時間1,420)×標準賃率1,200=96,000円の不利差異です。
- 照合する:総差異は実際1,920,000円(1,280×1,500)−標準1,704,000円(1,200×1,420)=216,000円の不利で、120,000+96,000と一致します。
ここで迷ったら:材料費と同じ対応関係です。賃率(単価側)のズレは実際時間で、時間(量側)のズレは標準賃率で評価します。
当月の直接材料費は、標準消費額575,000円・実際消費額576,000円(価格差異24,000円の有利・数量差異25,000円の不利)である。シングル・プランを採用している場合の、材料消費時の仕訳と差異の振替仕訳を示しなさい。
- 消費時:シングル・プランでは仕掛品勘定へ標準原価で借記します。(借)仕掛品 575,000/(貸)材料 575,000です。
- 差異の把握場所を確かめる:仕掛品は標準一本なので、実際576,000円との差1,000円は材料勘定の側に残っています。
- 差異を振り替える:(借)材料数量差異 25,000/(貸)材料 25,000、(借)材料 24,000/(貸)材料価格差異 24,000です。
ここで迷ったら:パーシャル・プランなら消費時が(借)仕掛品 576,000(実際)になり、差異の振替は仕掛品勘定との間で行います。借方に入れた金額が実際か標準かを最初に決めるのがコツです。
よくあるミス
ミニ演習(5問・即時採点)
Q1. 材料の価格差異の計算式はどれですか?(答えを見る)
(実際価格−標準価格)×実際数量です。価格のズレは実際に買った量全体に効くので、実際数量に掛けます。
Q2. 標準価格500円/kg・実際価格480円/kg・実際数量1,200kgのとき、価格差異はどうなりますか?(答えを見る)
24,000円の有利差異です。(480−500)×1,200=△24,000円で、実際のほうが安く買えています。
Q3. 公式法変動予算の予算許容額の式はどれですか?(答えを見る)
変動費率×実際操業度+固定費予算額です。実際の操業度に応じて予算を作り直してから実際発生額と比べます。
Q4. シングル・プランで仕掛品勘定の借方に記入する金額はどれですか?(答えを見る)
標準原価です。シングル・プランは仕掛品を標準一本で記帳し、差異は材料などの費目勘定で把握します。
Q5. 不利差異の材料数量差異25,000円を売上原価加減法で処理する仕訳はどれですか?(答えを見る)
(借)売上原価 25,000/(貸)材料数量差異 25,000です。不利差異は売上原価に加算します。
標準原価計算は、標準原価カードで作ったものさしと実際原価を比べ、材料費は価格差異と数量差異、労務費は賃率差異と時間差異、製造間接費は公式法変動予算のもとで予算差異・能率差異・操業度差異に分解します。記帳は仕掛品の借方が実際ならパーシャル・プラン、標準ならシングル・プランです。差異は期末に売上原価加減法で処理し、不利は加算・有利は減額します。次の単元では、勘定連絡図で工業簿記の全体構造を振り返ります。