CVP分析(損益分岐点と限界利益)
定義→計算→解釈の順で、意思決定に使える指標として理解していきましょう。
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本文骨子
はじめに
CVPは、売上・費用・利益の関係を一本ずつの直線で重ね合わせて読む道具です。まずは難しい式を置いて、線の動きだけをイメージしてください。売上は原点からまっすぐ伸びる線、総費用は固定費から斜めに立ち上がる線だ、と掴めれば半分は理解できています。
理解の道筋
固定費は数量に関係なく一定なので、グラフでは水平のスタートライン(切片)になります。ここに、数量に比例して増える変動費を重ねると、固定費から斜めに伸びる総費用の直線が描けます。一方、売上は原点から単価の傾きで一直線に伸びます。二本の線が交わる場所が損益分岐点。左は損失、右は利益の世界です。
式はこの絵を言葉にしただけです。限界利益率=(売上−変動費)÷売上、分岐点売上高=固定費÷限界利益率。数量で考えるなら、分岐点数量=固定費÷(単価−単位変動費)。いずれも「固定費を、売上から変動費を除いた1個あたりの稼ぎで埋めきるには何が必要か」を表しています。
手を動かす視点
単価を変えると売上線の傾きが変わり、単位変動費を変えると総費用線の傾きが、固定費を変えると総費用線の高さ(切片)が動きます。どこを動かせば分岐点が下がる(=有利)かを、線の動きで直感的に判断できるようにしましょう。
まとめ(要点)
- 固定費と変動費に分ける(混合費は高低点法などで分解)。
- 限界利益率=(売上−変動費)÷売上。
- 分岐点売上=固定費÷限界利益率(数量=固定費÷(単価−単位変動費))。
公式の早見表
| 指標 | 式 |
|---|---|
| 限界利益 | 売上 − 変動費 |
| 限界利益率 | (売上 − 変動費)÷ 売上 |
| 損益分岐点売上高 | 固定費 ÷ 限界利益率 |
| 損益分岐点数量 | 固定費 ÷(販売単価 − 単位変動費) |
| 目標利益達成売上高 | (固定費 + 目標利益)÷ 限界利益率 |
| 安全余裕率 | (実際売上 − 分岐点売上)÷ 実際売上 |
ミニ例
単価1,000円・単位変動費600円・固定費200,000円 → 限界利益率0.4、分岐点売上500,000円、分岐点数量500個。
解説(導出の手順)
- 1個あたり限界利益=単価−単位変動費=1,000−600=400円。
- 限界利益率=(売上−変動費)÷売上=400÷1,000=0.4。
- 分岐点売上=固定費÷限界利益率=200,000÷0.4=500,000円。
- 分岐点数量=固定費÷(単価−単位変動費)=200,000÷400=500個。
グラフのイメージでは、総費用線(固定費からの斜線)と売上線(原点からの斜線)が交わる点が損益分岐点です。
完全版(数値つき・分岐点と目標利益)
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 単価 | 1,000円 |
| 単位変動費 | 600円 |
| 固定費 | 200,000円 |
| 項目 | 式 | 結果 |
|---|---|---|
| 限界利益(率) | (1,000−600)÷1,000 | 0.4 |
| 分岐点売上高 | 200,000÷0.4 | 500,000円 |
| 分岐点数量 | 200,000÷(1,000−600) | 500個 |
| 目標利益100,000の売上 | (200,000+100,000)÷0.4 | 750,000円 |
メモリヒント:分岐点は固定費を限界利益で割る。数量版は1個の稼ぎで割る。
完全版(数値つき・混合費の高低点法)
与件:活動度と総費用の観測点—高点:500h・350,000円/低点:300h・250,000円。
- 変動費率=(高−低の費用差)÷(高−低の活動差)=(350,000−250,000)÷(500−300)=500円/h
- 固定費=総費用−(変動費率×活動度)。高点利用:350,000−500×500=100,000円(低点でも同じになるか確認)。
- 費用関数:総費用=100,000+500×活動度。
応用:活動度600hの予算費用=100,000+500×600=400,000円。分岐点分析に使う場合、単位変動費や固定費の見積もりとして投入します。
1分で型
- 限界利益=売上−変動費(1単位の貢献)
- 損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率
- 安全余裕率=(実際売上−分岐点)÷実際売上
この章のゴール
- 損益分岐点売上高/数量を算定できる
- 限界利益率・安全余裕率を算定できる
- 固定費・変動費の前提を説明できる
学ぶ順番
- 用語の定義(限界利益 等)
- 基本式の確認(損益分岐点 等)
- 指標の解釈と意思決定へのつなぎ
取り違え注意
- 固定費と変動費の分解(混合費は高低点法など)
- 設備更新:固定費↑・変動費↓で限界利益率が変わる
- 分母・単位の整合(率・金額・数量)
そのまま手を動かす5問
- 限界利益率を式で。
- 損益分岐点売上高の式を。
- 目標利益版の式を。
- 安全余裕率の式を。
- 高低点法の2点に入れる数字は?
参考解答(折りたたみ)
1) 限界利益率
(売上−変動費)÷売上。1売上あたりどれだけ利益が増えるかの割合。
2) 損益分岐点売上高
固定費 ÷ 限界利益率。数量版なら固定費 ÷(単価−単位変動費)。
3) 目標利益版の式
(固定費+目標利益)÷ 限界利益率。数量版は分子を同様に置き換え。
4) 安全余裕率
(実際売上−分岐点売上)÷ 実際売上。どのくらい余裕があるかの比率。
5) 高低点法の2点
最も高い活動度の点と最も低い活動度の点の費用と活動量。
変動費率=(高−低の費用差)÷(高−低の活動差)。固定費=総費用−変動費率×活動量。
やさしい読み替え
- 限界利益=「売上が1増えたら、利益はいくら増える?」
- 分岐点=「赤字でなくなる売上高(数量)」
- 安全余裕率=「どのくらい余裕がある?」
図解:CVPと損益分岐点
対話でつかむ:損益分岐点と限界利益
講師/学習者の会話で、式→解釈→意思決定の一連を短く確認します。
学習者:損益分岐点売上高はどう求めますか?
講師:固定費 ÷ 限界利益率。限界利益率=(売上−変動費)÷売上 です。
学習者:数量ベースなら、固定費 ÷(単価−単位変動費)、ですね。
講師:そのとおり。目標利益の売上高は(固定費+目標利益)÷限界利益率に置き換えるだけです。
学習者:安全余裕率は?
講師:(実際売上−分岐点売上)÷実際売上。どのくらい余裕があるかを示します。
学習者:数式だけで終わらせないコツは?
講師:限界利益は「売上が1増えると利益がどれだけ増えるか」。意思決定では差額で比較します(追加受注・自製外注など)。
学習者:固定費が増え、変動費が下がる設備更新の判断は?
講師:限界利益率が上がるなら損益分岐点が下がる可能性。ただし需要やボトルネックも併せて検討します。
物語での応用は「第7話:CVPと意思決定」へ。