個別原価計算と仕損費

注文ごとに発行する製造指図書に材料費・労務費・製造間接費を集計し、原価計算表(原価カード)で製品1件ずつの原価を求めます。仕損が出たときに補修指図書で仕損費を計算する手順まで、この単元でまとめて身につけましょう。

この単元で身につくこと

まずイメージ:注文ごとに「原価の口座」を1つずつ作る

船・機械・オーダー家具のように、顧客の注文に応じて仕様の異なる製品を作る受注生産では、「この注文にいくらかかったか」を注文ごとに知る必要があります。そこで個別原価計算では、注文ごとに製造指図書を発行し、その指図書を単位に原価を集計します。指図書1枚につき原価の口座を1つ作るイメージです。集計した原価は、完成すると製品勘定へ、販売すると売上原価勘定へと順に流れていきます。

図の見方:矢印は振替を表します。原価はいつも「仕掛品→製品→売上原価」の一方通行で、指図書番号がその金額の名札の役割を果たします。

製造指図書と原価計算表(原価カード)

製造指図書は、「この仕様の製品を何個、いつまでに作りなさい」という製造命令書で、#A102のような番号を付けて発行します。そして指図書ごとに原価計算表(原価カード)を用意し、材料の払出や作業時間が発生するたびに、該当する指図書のカードへ記録していきます。現場の記録が指図書番号を経由して原価計算表に集まる——このひも付けが個別原価計算の生命線です。

原価計算表に載る費目は3つです。直接材料費直接労務費は、出庫票や作業時間報告書に書かれた指図書番号からいくら使ったか跡付けられるので、実際の消費額をそのまま記入します(賦課・直課)。一方、製造間接費は特定の指図書に跡付けできないので、「予定配賦率×その指図書の実際配賦基準量」で配賦した金額を記入します。たとえば#A102に直接材料費10,000円・直接労務費8,000円を賦課し、予定配賦率200円/時×直接作業時間40時間=8,000円を配賦すると、原価計算表は次のようになります。

原価計算表(製造指図書#A102)
費目計算金額
直接材料費出庫票より10,000
直接労務費作業時間報告書より8,000
製造間接費200円/時×40時間8,000
合計26,000

確認:直接費は実際の消費額を賦課、製造間接費は予定配賦額を記入します。前の単元「製造間接費と予定配賦」で学んだ予定配賦が、ここで指図書ごとに使われます。

個別原価計算の記帳——集計から完成・販売まで

記帳は仕掛品勘定を中心に進みます。材料を出庫すれば仕掛品(借方)/材料(貸方)、直接工の賃金を消費すれば仕掛品/賃金、製造間接費を配賦すれば仕掛品/製造間接費です。指図書の製品が完成したら、原価計算表の合計額を製品勘定へ振り替え、顧客へ販売(引渡)したら製品勘定から売上原価勘定へ振り替えます。仕訳の型は次の5行に集約されます。

個別原価計算の仕訳の型(5つの場面)
場面借方科目貸方科目
直接材料費の賦課仕掛品材料
直接労務費の賦課仕掛品賃金
製造間接費の予定配賦仕掛品製造間接費
完成製品仕掛品
販売(原価の振替)売上原価製品

#A102なら、完成時に(借)製品 26,000/(貸)仕掛品 26,000、販売時に(借)売上原価 26,000/(貸)製品 26,000です。販売時には、売上を計上する仕訳(売掛金/売上)を原価の振替とは別に立てる点も思い出しておきましょう。

月末になっても完成していない指図書があれば、その原価計算表の集計額は振り替えずに仕掛品勘定へ残します。これが月末仕掛品原価です。個別原価計算では総合原価計算のような配分計算は不要で、「未完成の指図書の集計額=月末仕掛品原価」とそのまま読み取れます。

確認:完成=製品へ、販売=売上原価へ、未完成=仕掛品のまま。指図書ごとの状態(完成・引渡・仕掛中)を確かめてから振替先を決めましょう。

仕損費の計算と処理——補修指図書を発行する場合

「塗装工程で不良が出ました。一定の割合で出る正常な仕損です」——製造の現場では、加工に失敗して規格に合わない仕損品が一定割合で発生します。個別原価計算で2級が扱うのは、仕損品を補修(手直し)すれば合格品にできる場合で、このとき補修作業を命じる補修指図書(たとえば#101-2)を新たに発行します。

処理の流れは3ステップです。①補修指図書#101-2に、補修にかかった原価(材料費・労務費・製造間接費の配賦額)を通常どおり集計します。②その集計額が仕損費になります。③仕損費を、もとの製造指図書#101の原価計算表へ賦課(算入)します。たとえば補修に材料2,000円・賃金3,000円・製造間接費の配賦額1,000円がかかったなら、仕損費は6,000円で、#101の原価は補修前の集計額90,000円に6,000円を加えた96,000円になります。仕損は#101の製造に伴って生じたコストなので、その注文の原価として負担させるわけです。

なお、補修できずに代品を製造する場合(代品の製造指図書)や、作業屑の処理は1級(簿記1級)の範囲です。

確認:補修指図書に集計した原価=仕損費、行き先=もとの製造指図書。番号の親子関係(#101と#101-2)を意識すると迷いません。

ユイ補修指図書#101-2に集計した6,000円は、最後はどこへ行くのですか?

サクラ先生仕損費として、もとの製造指図書#101の原価に算入します。#101-2は補修費を集めるための入れ物で、独立した製品にはなりません。

ユイすると#101の原価計算表の合計は、補修費の分だけ増えるのですね。

サクラ先生そのとおりです。補修前の90,000円に仕損費6,000円を加えた96,000円が、#101の製造原価になります。

例題で型をつかむ

例題1(原価計算表への集計——#B205)

製造指図書#B205について、当月、直接材料費として材料300,000円を出庫した。直接工の#B205向け直接作業時間は200時間で、予定賃率は900円/時である。製造間接費は直接作業時間を基準に予定配賦率600円/時で配賦する。各取引の仕訳を示し、#B205の原価計算表の合計額を求めなさい。

  1. 直接材料費を賦課する:出庫額300,000円をそのまま仕掛品へ載せます。
  2. 直接労務費を計算する:900円/時×200時間=180,000円です。
  3. 製造間接費を予定配賦する:600円/時×200時間=120,000円です。実際発生額は使いません。
  4. 原価計算表を合計する:300,000+180,000+120,000=600,000円です。
例題1の答え(仕訳)
取引借方科目借方金額貸方科目貸方金額
直接材料費の賦課仕掛品300,000材料300,000
直接労務費の賦課仕掛品180,000賃金180,000
製造間接費の予定配賦仕掛品120,000製造間接費120,000

ここで迷ったら:製造間接費だけは実際発生額ではなく予定配賦額です。「直接費は実際、間接費は予定配賦率×実際基準量」の組み合わせを崩さないようにしましょう。

例題2(完成・販売の振替と月末仕掛品原価)

例題1の#B205(原価600,000円)は当月完成し、ただちに顧客へ引き渡した。一方、製造指図書#B206は月末現在未完成で、原価計算表の集計額は直接材料費50,000円・直接労務費30,000円・製造間接費20,000円である。完成と販売の仕訳を示し、月末仕掛品原価を求めなさい。

  1. 完成の振替:#B205の原価計算表の合計600,000円を製品勘定へ移します。
  2. 販売の振替:引き渡したので、600,000円を製品勘定から売上原価勘定へ移します。
  3. 月末仕掛品原価を読む:未完成の#B206の集計額50,000+30,000+20,000=100,000円が、そのまま月末仕掛品原価です。
例題2の答え(仕訳)
取引借方科目借方金額貸方科目貸方金額
#B205の完成製品600,000仕掛品600,000
#B205の販売売上原価600,000製品600,000

ここで迷ったら:完成は「製品/仕掛品」、販売は「売上原価/製品」で、主語が1つずつ進みます。#B206のように未完成の指図書は仕訳不要で、集計額が月末仕掛品原価になります。

例題3(仕損費の計算と賦課——#101と補修指図書#101-2)

製造指図書#101の製造中に一部が仕損となったため、補修指図書#101-2を発行して補修した。補修にかかった原価は、直接材料費2,000円・直接労務費3,000円・製造間接費の予定配賦額1,000円である。#101の補修前の集計額は90,000円であった。仕損費の金額を求め、#101の原価計算表を完成させなさい。

  1. 補修指図書に集計する:#101-2の原価は2,000+3,000+1,000=6,000円です。
  2. 仕損費と読み替える:補修指図書の集計額6,000円が仕損費です。
  3. もとの指図書へ賦課する:#101の原価計算表に仕損費6,000円を算入し、合計は90,000+6,000=96,000円になります。
例題3の答え(原価計算表:#101と#101-2)
費目#101#101-2(補修)
直接材料費40,0002,000
直接労務費30,0003,000
製造間接費20,0001,000
小計90,0006,000
仕損費6,000△6,000
合計96,0000

ここで迷ったら:#101-2の行は仕損費を#101へ振り替えて0円で締めます。補修費を製造間接費として全体に配賦したり、期間費用として処理したりしない点が、補修指図書を発行する場合のポイントです。

よくあるミス

製造間接費を実際発生額で原価計算表に載せる資料に実際発生額が並んでいると、そのまま使いたくなるために起こるミスです。個別原価計算の原価計算表に載せる製造間接費は「予定配賦率×その指図書の実際配賦基準量」です。実際発生額との差は配賦差異として別に処理するため、カードには載せません。
指図書番号のひも付けを取り違える複数の指図書が同時に走っていると、出庫票や作業時間の番号を読み飛ばして起こるミスです。集計の前に「どの番号のカードに書くか」を必ず確認し、集計後は指図書別合計と費目別合計の縦横が一致するか検算しましょう。
完成と販売の振替を混同するどちらも「振替」で形が似ているために起こるミスです。流れは仕掛品→製品→売上原価の一方通行なので、完成=製品/仕掛品、販売=売上原価/製品と位置で覚えます。月末に未完成なら振替はせず、仕掛品のまま残します。

ミニ演習(5問・即時採点)

Q1. 個別原価計算で原価を集計する単位はどれですか?(答えを見る)

製造指図書ごとです。注文ごとに発行した製造指図書を単位に、原価計算表(原価カード)で材料費・労務費・製造間接費を集計します。

Q2. 原価計算表に載せる製造間接費の金額はどれですか?(答えを見る)

予定配賦率×その指図書の実際配賦基準量です。実際発生額は使わず、差は配賦差異として別に処理します。

Q3. 製造指図書#B205(集計額600,000円)が完成したときの仕訳はどれですか?(答えを見る)

(借)製品 600,000/(貸)仕掛品 600,000です。完成で仕掛品から製品へ振り替え、販売したときに売上原価へ振り替えます。

Q4. 補修指図書#101-2に集計した原価6,000円はどう処理しますか?(答えを見る)

仕損費として、もとの製造指図書#101の原価に算入します。補修指図書の集計額=仕損費です。

Q5. 月末に未完成の製造指図書#B206(集計額100,000円)はどう扱いますか?(答えを見る)

月末仕掛品原価として仕掛品勘定に残します。未完成の指図書は振替をせず、集計額がそのまま月末仕掛品原価になります。

個別原価計算は、製造指図書ごとに原価計算表(原価カード)で原価を集計します。直接費は実際額を賦課し、製造間接費は予定配賦率×実際基準量で配賦、完成=製品へ・販売=売上原価へ・未完成=月末仕掛品です。仕損が出たら補修指図書に補修費を集計し、その額を仕損費としてもとの指図書へ賦課します。次の単元では、同じ製品を作り続ける工程向けの総合原価計算を学びます。

対応する演習